一度は消えた仕事への思い。再燃した理由とは

職業訓練校は、離職した社会人が新たな技術を学ぶことで、「仕事」ともう一度向き合う場所。これまでどんな職に就き、なぜ離れ、学びなおすことにしたのか。働くということを今どう感じているか。
さまざまな背景をもつ同級生に話を聞いてみました。
第3回目は20代のMくんです。

エンタメの現場に魅せられて

「僕は人を楽しませること、目立つことがめちゃくちゃ好き」と話すのは、エンタメ業界で働いてきた27歳のMくん。お笑い、スポーツ、音楽、文学などエンタメを広く深く愛し、illustratorの授業で「推しのアイドルを、俺の嫁と呼ぶのは禁止」というピクトグラムを作って教室を沸かせました。クラスで開催された「フォントカルタ大会」では、元卓球部の俊敏さを発揮して優勝し、賞品の人形焼きを私にも分けてくれた気前の良い好青年です。今は「人の話題の中心にあるエンタメの世界に、この先もずっといたい」と笑顔で語りますが、紆余曲折をいくつも乗り越えてきました。

M君の仕事遍歴は、ラジオ好きが高じて入った大学の放送部時代にスタート。コミュニティーFMからの業務委託で、素人の主婦がDJを務める一時間の番組を企画から担当しました。「DJが爆笑して息が止まるくらいの瞬間がある。これはリスナーも笑ってるぞ、と制作現場の空気がぐっと良くなる。自分がそんなコンテンツを作っていると思うと、最高でした」。

出演者も視聴者も制作者も楽しい。そんな現場の醍醐味を知り、卒業後はテレビ番組の制作会社に入社。2020年4月、コロナ禍の非常事態宣言の真っ最中でした。期待と熱意を胸に入社したものの、同僚や先輩は多忙で、質問や相談をしにくい状況が続きました。仕事に集中できないことが増え、「なんだか歯車が狂ったみたいで」。こんな思いを抱えたままでは働けないと、半年間で退職を決意しました。

エンタメに携わりたいという熱は急降下し、アウトドアショップでバイトを開始。働く環境も良く、勉強会や交流も盛んでした。「前職では、あれやってねーのかよ、と言われていたところが、今は、ゆっくり覚えればいいよ、と言ってくれる。居心地がよくて2年半いちゃました」。正社員に、という声もありましたが、消えていた心の炎がふつふつと再燃。「やっぱり、いろんな人に感動を与えるエンタメで勝負したい。もう一度、やったんぞ!!」

次に入社したライブやイベントの設営をメインとする会社では、夜中12時から仕事開始、22時間勤務、30時間勤務などもざらでした。長時間労働は覚悟の上でしたが、「どうせ長く働くなら、企画やコンテンツの中枢にもっと近づきたい」という気持ちが募り、一年で転職活動を開始。ハローワークを訪れた際に訓練校の張り紙を見かけ、「コンテンツを作りたいのならデザインツールや動画での編集の仕組みも知っておくべきかも」と入学し、今年2月にはエンタメ系の企業からの内定を手にしました。

能もラジオも、やりたいことを、全力で

一度消えた「エンタメを仕事にしたい」という思いが再び熱を持ったのは、なぜだったのでしょうか。M君は、テレビの制作会社を半年でやめた頃を、「自分で答えを出そうと抱えすぎていた」と振り返ります。アウトドアショップの良い環境で体を休め、本を読み、好きなラジオや音楽を聴き、周りの人たちと語らううちに、様々な意見を取り入れ、多角的な視点を持てるように。「制作会社の先輩たちの気持ちも分かるようになったんですよね。それに、やっぱりエンタメから元気をもらったから」

「この先、この熱を消さずに、ずっとエンタメの世界にいたい」と願うMくん。自分だけでなく、人が楽しいと思えるようなものを作る「引き出し」を増やすべく、興味がないことにも積極的に関わろうと意識しています。最近は能のワークショップに通い、舞台にも立ったそう。「先が見えない時代だからこそ、やりたいと思ったことや目の前のことを、全力でやりたい」とVtuberの裏方やポットキャストにも挑戦中です。Mくんのつくったコンテンツが誰かを励まし、楽しませている未来は、すぐそこのような気がします。

おすすめ記事